【くちコミ情報】 他国の歴史をネタにした、あからさまなセンセーショナリズム
(数年前、「死を啼く鳥」でデビューし、かなりの反響をえた作者が、自身滞在したことのある日本を舞台の一部にとりこんで発表した3作目です。別のタイトル Devil of Nangkin とかでも出版されてますから、同じ本を間違って買わないようにしましょう。) それはともかく、作品の出来は、ひどいの一言だ。グレイという名の英国の若い女が日本にやってくる。目的は、南京でむかし日本軍が行った「虐殺」を写したフィルムを、東大で教える中国人の老教授がひそかに保管していると知って、どうしてもそれを見たい、と思ってのことだ、という設定だ。 p でも、なぜ見たいのか?ジャーナリストや歴史学の学生が見たいというならまだしも、この作品では、子供時代に見たその「事件」の写真がトラウマになって心に残り、精神的に不安定になったという理由が、過去のフラッシュバックで暗示される。だから、教授の前で理由を説明するときも、「見たいの」を繰り返すだけ。 p このあと、グレイは日本でホステスとして働きだす(モー・ヘイダー自身、ホステスとして働いていた経験があることを、すでに明かしている。)そこで、最初は断っていた教授もあることを提案する。ヤクザの冬木にホステスとして近づいて、ある秘密を盗んでほしい、そうすれば見せてあげる、というものだ。 p この現代の話と同時に、その中国人教授の過去を記録した日誌によって、物語が二重に進行する。最後に二つが重なったとき、衝撃の真実が明かされる、っていう仕組みだ。 p 一番の失敗はグレイだとすぐわかる。一言でいえば、そんな人物ありえない、それだけ。実際、グレイのやっていることは支離滅裂だ。何も知らない若い英国人が、日本の街角でスカウトされてホステスになって、ヤクザの親分に接近できるなんて、あまりにナンセンス。そのヤクザの描写も、あまりにおざなり。そのうえ、不老不死のクスリとか、マリリン・モンローになりたがる「ママ・ストロベリー」とか、つまらないの一言。最初精神的に不安定だという設定も、気がつけば消えている。要は都合のいいように人物を操っているだ。ときどき出てくる東京の地名や日本企業の名前も、ほとんど機能しない。 p この人本当に東京にいたのだろうかと疑いたくなるような淡白さで物語は展開するが、前作2作と同様に、暴力とセックス描写になると勢いが出る。別にそれはそれで結構だが、ならばなぜ東京や中国を舞台にするのか意図がわからない。 p 本の最後に筆者のあとがきで、「南京大虐殺」について、自身のコメントを載せている。ここでこの論議のたえない「事件」については、本題とは関係ないので触れないでおく。ただ、モー・ヘイダーは少なくともリサーチはしたようだが、主要な参考文献にあげているのが、アイリス・チャンと本多勝一というのでは、偏っていると指摘されても仕方ない。意図的ではないとしても、不用意のそしりはのがれえないし、そもそも、なぜこの日本と中国の歴史を背景に選んだのか、わからない。彼女には、歴史もセンセーショナルな話題としての価値しかなかったと思えないのだが、どうだろうか。
【くちコミ情報】 他国の歴史をネタにした、あからさまなセンセーショナリズム
(数年前、「死を啼く鳥」でデビューし、かなりの反響をえた作者が、自身滞在したことのある日本を舞台の一部にとりこんで発表した3作目です。別のタイトル Devil of Nangkin とかでも出版されてますから、同じ本を間違って買わないようにしましょう。) それはともかく、作品の出来は、ひどいの一言だ。グレイという名の英国の若い女が日本にやってくる。目的は、南京でむかし日本軍が行った「虐殺」を写したフィルムを、東大で教える中国人の老教授がひそかに保管していると知って、どうしてもそれを見たい、と思ってのことだ、という設定だ。 p でも、なぜ見たいのか?ジャーナリストや歴史学の学生が見たいというならまだしも、この作品では、子供時代に見たその「事件」の写真がトラウマになって心に残り、精神的に不安定になったという理由が、過去のフラッシュバックで暗示される。だから、教授の前で理由を説明するときも、「見たいの」を繰り返すだけ。 p このあと、グレイは日本でホステスとして働きだす(モー・ヘイダー自身、ホステスとして働いていた経験があることを、すでに明かしている。)そこで、最初は断っていた教授もあることを提案する。ヤクザの冬木にホステスとして近づいて、ある秘密を盗んでほしい、そうすれば見せてあげる、というものだ。 p この現代の話と同時に、その中国人教授の過去を記録した日誌によって、物語が二重に進行する。最後に二つが重なったとき、衝撃の真実が明かされる、っていう仕組みだ。 p 一番の失敗はグレイだとすぐわかる。一言でいえば、そんな人物ありえない、それだけ。実際、グレイのやっていることは支離滅裂だ。何も知らない若い英国人が、日本の街角でスカウトされてホステスになって、ヤクザの親分に接近できるなんて、あまりにナンセンス。そのヤクザの描写も、あまりにおざなり。そのうえ、不老不死のクスリとか、マリリン・モンローになりたがる「ママ・ストロベリー」とか、つまらないの一言。最初精神的に不安定だという設定も、気がつけば消えている。要は都合のいいように人物を操っているだ。ときどき出てくる東京の地名や日本企業の名前も、ほとんど機能しない。 p この人本当に東京にいたのだろうかと疑いたくなるような淡白さで物語は展開するが、前作2作と同様に、暴力とセックス描写になると勢いが出る。別にそれはそれで結構だが、ならばなぜ東京や中国を舞台にするのか意図がわからない。 p 本の最後に筆者のあとがきで、「南京大虐殺」について、自身のコメントを載せている。ここでこの論議のたえない「事件」については、本題とは関係ないので触れないでおく。ただ、モー・ヘイダーは少なくともリサーチはしたようだが、主要な参考文献にあげているのが、アイリス・チャンと本多勝一というのでは、偏っていると指摘されても仕方ない。意図的ではないとしても、不用意のそしりはのがれえないし、そもそも、なぜこの日本と中国の歴史を背景に選んだのか、わからない。彼女には、歴史もセンセーショナルな話題としての価値しかなかったと思えないのだが、どうだろうか。