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【くちコミ情報】
バランスのとれた一冊。
学生時代、卒業論文のテーマに福永武彦を選んだのはもう10年以上前。 いつも福永氏の小説や評論をバッグに入れて持ち歩き、 幾度となく読み返しては鉛筆で線をひいたり 細かく書き込みを入れていったり・・・ p この本もその当時の思い出の一冊。 福永武彦の小説を読み解くとき、 キーワードになりうるであろう単語がいくつかあるように思う。 「愛」「孤独」「生」「死」「水(河・海)」・・・ 本書には、これらをテーマにした小説がバランスよく収録されている。 時を経てなお、私の本棚に納まっている理由もそこにあるのだろう。 p 一般に長編『忘却の河』が最も小説として完成度が高く、 福永氏の代表作であるといわれるが、 例えば本書に収録されている『心の中を流れる河』も 短編ながら実にまとまりの良い作品だ。 愛を失った女性の孤独と、若さに裏打ちされた青年の情熱。 登場人物の視点が入れ替わり、時に交わり、 小説の展開に広がりと奥行きをあたえてゆく。 まるで音楽でも聴いているかのようなこの構成は まさに福永氏の意図したものである。 p 全体の文章は平易でありテーマもわかりやすい。 短編になるほど、時に表現が直球になり過ぎる感がなくもないが、 小説に込めようとしたメッセージを汲み取るには むしろこういった作品群からの方が入りやすいかもしれない―。 そんなことを感じさせてくれる一冊だ。 p ----------------------------------------------------------- でも、正直、「詩人」としての福永武彦は 個人的にはあまり好きになれないんですけどね(笑)
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【くちコミ情報】
福永さんの作品の最高の結晶
「死の島」。ヒロシマ。被爆。2人の女性。夜行列車。ドチラカガ生キテイテ、ドチラカガ死ンデイル。電報。カタカナで描かれた原子野の光景。 この作品は、複数の作品を、個別に同時に、書き上げて、それを裁断して再び織り込んだような、ものすごく手がかかった構造をしている。しかし、われわれ読者が、その前衛的な構成の圧迫を一切、受けることはない。そこが凄いところだ。真に前衛的なものは、その前衛を、全く、感じさせない、というわけだ。 彼がこれまでの作品で描いていた、高い文学性に加え、彼が手がけていた推理小説での「次はどうなるんだろう」、切れ目ない好奇心を誘う手法を、練り込み、完成した福永文学最高の結晶である。 夜行列車で結末を知りに行く、主人公の刻むような気持ちが、移動手段と通信手段が限定されていた時代の中で、再現されている。携帯電話が普及し、交通機関の移動速度の向上で、この小説の設定を、体感できない日本人は、増えているはずだ。でも、それでいい。僕は、僕だけは体感できる。自分ひとりだけで、独占的に大切にしたい、福永武彦の作品。「草の花 (新潮文庫)」のレビューでも、語ったが、できれば自分以外の誰も、触れてほしくない。そう思っているほどだ。 この作品のために、作者が作ったノートをみたことがある。まるで作曲家が書いた交響曲の楽譜か、建築家が描いた設計図のようだった。 いくつもの個別に完成された小説を、小さく分割して、再び組み合わせたと思われる、作業の過程を証明するかのように、そこには文字とともに、記号や数字がびっしりと記されていた。
あまりに早く書かれた実験作
先のレビューにつけ加えるものは何もありません。 ただこの作品が傑作である点に私も一票を投じたく思い、 このレビューを書くことにしました。 数年前、映画『21g』が公開された当時、ストーリーの時間軸を バラバラにしてちりばめ、突然の場面転換を図るその手法に、 「斬新だった」という感想が巷にあふれました。 しかし、本当に斬新でしょうか? 福永武彦は、すでに30年以上も前に、 この『死の島』でそれを試みているではありませんか。 福永武彦という作家は小説技術というものに大変意識的だったようで、 それぞれの作品で何らかの実験を試みています。 この作品のように時間軸をバラバラにしたり、 『幼年』で、幼年期の自分と回想している現在の自分を 区別して書いてみたり。 それでいて、「技巧に走っている」という印象を 与えないその手腕は、まったく見事と言うほかありません。 福永は「作者と読者は作曲者と演奏家の関係のようだ」 と何かのエッセイで言っています。 作品は、それ自体で完成しているのではなく、 想像力を働かせて読むという読者の参加あってはじめて、 物語は完結するというのです。 この『死の島』のクライマックスをお読みになれば、 この作者の言が、決して空言ではなかったことがわかるでしょう。 賛否両論だったあの終わり方は、作者・福永武彦の小説観を 見事に体現したものなのです。 長々と書いてしまいました。 もう一度だけ繰り返して筆を置きます。 この作品は、偉大な実験作にしてまれに見る傑作です。
福永の集大成
福永武彦は、現代ではほとんど忘却のかなたにおしやられつつある作家の一人だ。彼の著作で入手しやすいのは新潮社文庫の「草の花」「愛の試み」くらいか。「草の花」は佳品だが、よくも悪くも甘い。やや感傷に流れすぎのきらいがある。当時の文学少女(今では死語か)に愛読されたというのも頷ける。 p 確かに今の読者の目にはやや時代がかっていると映ってしまう作風かもしれない。あまり真剣に芸術を語る登場人物たちに違和感を覚えてしまうかもしれない。 しかし「死の島」は傑作である。今読んでも色あせない。時間を前後させ、何人かの人物の視点、内面から成り立つこの小説は、加賀乙彦氏の解説の通り、ジョイスやとくにプルーストを連想させる。手法の斬新さを追求しながらも小説本来の面白さ、すなわち筋の展開や文章の精度などはまったく損なわれず共存している。 p 堀辰雄や中村真一郎などもプルーストから強い影響を受けたが、私は日本でもっともプルースト的な作家は誰かと問われたら、福永を挙げる。もっとも、彼の中にはプルーストやボードレール以上に、リルケがいるのだが。 p 「忘却の河」もそうだが、なぜ絶版なのか理解できない。ほかにいくらでも代わりはあるだろうに。埋もれさせてしまうにはあまりに惜しい作品だ。
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