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【くちコミ情報】
歴史に埋もれる前に。
私がまだ大学生時代にS建築研究所でアルバイトをしていた時、その設計事務所にも都庁の設計要綱が郵便で来ていた。 しかし、いつまでたっても誰も空けようとはしないので、私は所員にその理由を聞いた。 すると、「どうでもいいよ、こんなもの。丹下が取るに決まっているしなあ」という言葉だった。 要するにコンペの要項が送られる前にすでに「丹下」で決まっているというのは、業界の常識だったのだ。 もちろんそれは、丹下と都知事の蜜月関係があってのこと。 出来レースに、まともに参加する気になれないのは、その時よく分かったつもりだ。 しまいには「君、やってごらんよ、勉強になるよ」とまで言われてしまった。 磯崎案は、都が決めた設計要項の条件を完全に無視して設計された。 磯崎自身もこれでは初めから落選することは解っていたが、反骨と進化の担い手は、その愚行をやることに価値と意義を見出した。 今や世界的な建築家として、歴史ににも残る存在となった、磯崎新。 磯崎新は、あのレム・コールハースをラ・ヴィレット公園のコンペで最後まで審査員として押し、 ザハ・ハディドを香港ピークのコンペで周囲の反対を押し切って一等にした、先見の明がある人物でもある。 ある意味、現代建築を担う人物を発掘し続けている偉才でもある。 そんな彼の仕事がこういう形で見直されるのは、大変意義深い事と言えよう。
知られざる過去と事件と人脈へ
磯崎新の若き日(それは知られざる小学生時代まで遡るだろう)から現在に至るまでの彼を巡る<事件>を、縦横無尽に生き生きと描写する。本書の登場人物は、磯崎の師匠の丹下健三の師匠の前川國男の師匠のコルビュジエに留まらず、建築界を遥かに超えたところにリンクする彼の豊かな人脈の一端が明かされる。磯崎によって起こされる<事件>には誰も無縁ではいられない。それほど磯崎流事件簿は、その影響力と魅力とによって建築界を賑わし続けていることを、遊び心豊かな描写で明かす。
権力者とアナーキスト
丹下健三は鈴木都知事との関係も深く、都庁コンペは国内の指名制、審査員もかつて丹下が発案した委員会の委員が占め、審査プロセスも非公開。「丹下の都庁」のための条件は揃い、「ぶっちぎりで勝とう」と宣言した丹下。 100m以上の建築実績がなく圧倒的に不利ながら、磯崎は超高層を求める都に対して低層のプランでコンペに挑む。 師弟の対決というよりも、都庁をめぐる師弟のすれ違いを本書は描く。都庁よりはるか以前から、丹下は磯崎とは大きく別の道を歩んでいた。生理として権力に寄り添う丹下と本来的にアナーキーな磯崎は、師弟でありながら対極の存在でもある。都庁コンペではその両極を白日のもとに晒したという意味で、一つの戦後日本建築史の転回点だったといえる。 2人の超えがたい距離と、各々の深い孤独は、青木淳らその渦中にいた人間でも量りかねる厳しさを湛えている。和田誠のノスタルジックで温かい装丁は、この師弟の激しく強烈なすれ違いのドラマを、「師弟のいいお話」に取り違えてはいないか。
新宿の都庁を通していろんなことがわかる本
コンペとは、建築家の決闘だ。策をめぐらせ、敵を牽制し、根回しもし、知力の限りを尽くしてライバルの案をつきおとす。……それが、丹下健三の闘い方。一方、不肖の元弟子・磯崎は、むしろ天衣無縫に、自分が過去に影響を受けてきた古今東西の名建築や、アバンギャルド芸術、村上春樹や荒俣宏までも総動員して、自分だけの「シティ・ホール」の形をつくりあげていく。エレベーターが60台もいるような巨大な建物を、頭の中だけで建ててしまう建築家の想像力ってすごい。そして、そうした理想はたとえ実現しなくても、確実に人々の心の中に残る。磯崎の案は、思いがけない形で、師匠・丹下健三の作品の中にあらわれることになるのだ。皮肉のきいたラストがいい。
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1930年代生まれの思想的厚み
建築についてまったくの素人である私がこの本を手にとったのは、1930年代に生まれさまざまな分野で活躍した(している)芸術家や知識人たちの人脈、コラボレーションを通してである。磯崎氏の空間設計には、建築そのものへの強靭な批評精神が機能し、「建てることの悲劇」ということを私たちに問いかける力がある。何かが違うという曖昧な時代のわだかまりを照らしだす力がある。バブル時代の建築物の検証からはじまり、アジア連合としての海上都市「海市」の構想や東京から淡路島への首都移転構想、フィレンツェのドーム内の祭壇に天井へ昇る螺旋構造を導入する、その極めて現代的・前衛的な建築をめぐる発想の源には、日本書紀・古事記、阪神淡路大震災、20世紀および21世紀の音楽、科学、政治など縦横無尽の思考がある。都市批評をこめた都市計画を行う策士ぶりは、特に建築家に必要なしたたかさをおしえてくれる。
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粋な書物というものがあるとすれば、本書はその好例だろう。世界を舞台に活躍する建築家であり、思想・美術などの分野でも並はずれた存在感を示す磯崎新。文芸評論の枠を越え、驚嘆するほどの知識を懐に文化全般を見据える福田和也。両者の対談集と聞くだけで胸おどるものがあるが、タイトルにせよ装丁にせよ、じつにあっさりとしたものだ。中味によほどの自信がなければ、こうは造れない。じっさい、格別の重みをもって読む者にせまる、圧倒的な1冊なのである。 日本のある時代や文化を象徴する建築物を磯崎が、それに呼応する文学作品を福田が語るというのが本書の基本的なスタイル。たとえば東大寺南大門に対して藤原定家「明月記」、厳島神社と「平家物語」、大阪万博のお祭り広場には三島由紀夫という具合だ。とはいえ、ごく平均的な建築家と評論家ならともかく、この2人にそうした区分けはほとんど無意味らしい。はなから領域などないもののごとく、おたがい縦横無尽に日本文化全体を論じつくしている。その情報量や考察の深度に反して、両人とも終始楽しげであることがまた快い。それでいて、「反復の中で出てくる洗練というのが、……いわゆる日本的というものなんですよね」(福田)、「日本では、……(正統と異端のような)極端な対立の事例を捜すのが難しい。むしろ、……逸脱、挫折、変質、逃走、といったズレですね」(磯崎)というような、本質を抉る寸言が随所にちりばめられている。まことおそるべき書物といわねばならない。 一読して痛感することだが、文学であれ建築であれ、時代を画するものは、それ以前に存在したスタイルや区分を軽々と越えてしまう。吹き抜けという革命的構造を採用した安土城しかり、歴史的事件をあくまでみずからの内面にかかわる問題として取り込んだ村上春樹しかりである。だとするなら、本来の領分をはるかに超え、とてつもない広がりをもって活動するふたりの越境者が、文化の全体像を深い眼差しで捉え得たとしてもふしぎはない。いわば、本書そのものがひとつの文化史的事件だといっても言いすぎにはなるまい。(大滝浩太郎)
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磯崎新のアーバンデザイン
アーバンデザインについてインタヴューで語っているところがあって、そこで磯崎は、「アーバンデザインとは都市の中に異物を挿入すること」だといっている。なにか別のものが侵入してくることで変形が加えられる。エラーが発生する。まちがう。都市とはそうやって発展していくものだ。それでいいのじゃないかと彼はいう。こうした都市論を組みたてるのに、磯崎は免疫系の議論が参考になったと話すが、それ以上に、たとえばインターネットのようなモデルに似ているのではないか。とすると、いまの世代の建築家は、インターネット(だけじゃなくてもいいが)を駆使して都市デザインを試みるべきではないか。
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